我々は結婚直後、のっぴきならない事情があり、約三か月で最初に住んだ家を引っ越すことになった。
リフォームをし、掃除をし、荷物を運び入れ、「もう二度と引っ越しはしないかも」とセンチメンタルな気分に浸っていた矢先のことであった。
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荷物、せっかく全部ほどいたのに…

そしてなんと出ていくことが決まったその日、3週間以内に引っ越しをしなくてはいけないという過酷な縛りが生まれた。そんなことある?
つまり今すぐ引っ越し業者を決めなければならない。
この縛り、私が決めたわけではない。勿論夫が決めたわけでもない。全てはのっぴきならない事情のせいである。

私は頭を抱えた。
なぜならこの時「手から毒がでるねこ」という漫画の書籍制作に追われていたのだ。
それに加え、2本の漫画連載、週一で他県の大学の講師、コラボカフェ2店舗分の会議やレシピ開発、カフェで販売する服のデザイン等、かつてないほどたくさんの仕事が詰まっていた。
そこに物件決めや引っ越しの作業が加わる。
引っ越しを辞めるという選択肢はない。誰にもどうすることもできなかった。

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「死」である。
しかし考えている暇はない。


話は少しそれるが学生の頃、一度だけ家族が解散した。
父の会社が倒産し自己破産。自己破産をするとその家庭の財産が没収されてしまうシステムなんだけど、住んでいたマンションが持ち家だったため、財産とみなされて没収される事になり、それを機に家族が解散。
その際一度だけガチの夜逃げを体験した。

それに比べれば今回の引っ越しなんて楽なもんだ。
経験は人を強くする。

あとこの経験を経て私は「父さんが倒産」というギャグを体験した側の人間として使用する事ができるようになった。
全体の出来事を総合すると、このギャグを正しく使用できるようになっただけでプラマイプラスである。
今回の引っ越しも過酷ではあるが、いつか笑い話にできる事だろう。恐らくではあるが。

我々は早速不動産屋に相談をした。
ヘトヘトになりながら数件の家を周り、最終的にたどり着いた家が我々にとって最高の条件だった。
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素敵~!


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即決だった。


初めて住む土地だったが、怪我の功名というべきか近所の人がとても優しく、いい土地だった。交通の便もいい。我々は歓喜した。
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さすがにもうしばらく引っ越すことはないだろう。そうだ、犬とかも飼っちゃおう!ワンワン。なんつって!

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ワンワンっつって。

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ああ…ここからが本当の新婚生活の始まりなのね。私幸せ。


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ボタボタボタボタ

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ボタボタボタボタ
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次回「大家さん、雨漏りなおしてください」へ続く


手から毒がでるねこのはなし【電子限定描き下ろしマンガ付き】
原田ちあき
ソニー・ミュージックエンタテインメント
2020-05-14

へとへとになりながら描いた漫画です